幸せな食べ物
食べることは生きること
その通りだと思う。本当に美味しいものは心まで満たす。
大好きなパン屋さんが店じまいしてしまう。
出不精な私が知っている数少ない、お腹も心も満たしてくれるお店だ。
食べるたびに、明日も頑張ろうと元気をくれるパンだった。
噛み締めるほどに小麦の香りが口の中に広がる。一つ一つ丁寧に作られたパン。
女性の店主さんが細腕で一人切り盛りしていたが、体力的に辛くなったのだそうだ。
淋しい。
もう二度とこのパンが食べられない、そう思うと切なくなるくらいここのパンが大好きだった。
パンも、店内の雰囲気も、店主さんの人柄も、この店に向かう自分の足取りさえも大好きだった。
店じまいの今日、お客さんの誰もが残念がり、一言二言店主さんと言葉を交わしていた。そして最後は誰もが「ありがとう」と店を後にした。
きっと一人一人にここのパンに纏わる物語がある。
後に続くお客さんを待たせないために、私もやはり手短かにお礼だけを言って店を出た。
これでおしまいか。
恥ずかしがらずに手紙でも書いてくればよかったかな。
そんな気持ちをここに吐き出す。
あー、こんなに美味しいのに
こんなに大好きなのに
こんなに幸せな気持ちになれるのに
あーあ。淋しいなぁ…