くまんち

なんてことない、日々のこと

優しさに触れる

園バスから降りた息子と家へ向かう帰り道。

車が一台しか通れない路地沿いのお家から車が出ようとしていた。いつものように、そっと端に寄り、やり過ごす。

「あら、ごめんね。待たせるね」

客人が安全に車を出せるよう道に出てきたおばあちゃんが言った。

いえいえ、と息子と手を繋ぎ待つ。

「気をつけて帰るのよ、ね」

「また来るから、元気にね」

娘さんかしら、60代くらいの女性がこちらに気づき運転席からありがとうと会釈してくれた。

車を見送り帰ろうとすると

「お花、あげようか」と家人のおばあちゃん。

「ハサミとってくるから、待ってて」

おばあちゃんの背中を見送りながら息子と顔を見合わせる。

「お花くれるって」

「やさしい!」

「うん、優しいね」

そこは椿やサザンカがたくさん植えてあるお家。毎日通る道なものだからわざわざ観察するわけではないけれど、庭には畑と井戸があるな、ポンプ式だな。水仙が咲いたな、春だな…なんて、通るたびに思っていた。

ハサミを持って戻ってきたおばあちゃんが椿(サザンカかも?)の花を切ってくれる。

「虫がついとるかもしれんから、手袋していろてね(触ってね)かぶれるけん」

パチン。

「前に病院の先生のとこにあげたら、ちゃんと手袋してねって言ったのに素手でして、ひどくかぶれたって。もう持ってくるなーて怒られたよ」

笑いながら、パチン、パチンと切ってくれる。

一枝くらいのつもりだったから、慌てていると「いろいろ植えてるから、持ってって」と庭を歩き回りながら切ってくれた。

一重、八重、色もまだらなものもあり綺麗。

お花がお好きなんだろうな、と思っていると

「お花はええね、余計なことはなんもいわない」と笑った。

「あのね、これ、新芽。これがある枝、付けとくから土に挿してみて。葉っぱはね、呼吸するから2枚くらい残して、このくらい…ね?増えるから」

挿木の仕方も教えてもらう。

「あ!手袋忘れんとってよ!」

「ありがとー!!」と息子と一緒にお礼を言って帰ってきた。

花束をいただくなんていつぶりだろう。

 

私は善意を受け取ることに怖気てしまう。

嬉しい!という気持ちと同時に、申し訳ない!と思ってしまうのだ。

『こんな良くしてもらう資格がない』だとか『このありがたさに見合うお礼って…?』だとかアレコレ考えてしまう、そんな喜びを伝える瞬発力のなさが相手の善意に対してひどく失礼な行為のように思われて悲しくなる。相手は見返りなんて気持ちではないだろうに。

軽やかに受け取れないのは、軽やかに差し出せないからかもしれない。

みみっちぃな、私

「花はええね」というおばあちゃんの言葉を反芻する。

 

椿の花束は重い。枝だものね。

 

早速、と手袋をして取り掛かる。親戚の形見分けでいただいた花瓶がようやく華やいだ。やっぱり和のお花が似合う。

センスがない…

センスはないけれど、お花はきれい!

 

教えてもらった通り、挿木もしてみた。息子に手伝ってもらったら、どれがどの花の枝だかすっかりわからなくなってしまったけれど。

それはそれ、お楽しみということで。

 

うまく根付かせられるかな?

それもまた、お楽しみ。