くまんち

なんてことない、日々のこと

お盆に帰る

お盆の話。
怪談ではないけれど、人によっては“世迷いごと”を真顔で書いたので、お嫌いな方はお避けくださいね。

 

 


小さい頃、我が家には犬がいた。私が生まれる前から両親の大切な家族。

名前は「しろ」白いから「しろ」


パッと見はソフトバンクのお父さんに似てるかな。いつもちょっと困り顔だった。


しろ は幼い私がしっぽを引っ張っても怒らないくらい優しい子だった。後から生まれた私を妹のようにかわいがっていた、と両親はよく言う。

 

その しろ は私が3歳の時に死んだ。


寒い冬の日。風邪だとお医者さんが言ったので毛布で一生懸命温めた。その毛布の色も柄も、早い呼吸で上下する背中も覚えている。
「しろ、死んじゃった」と告げた母の見開かれた大きな目から涙が止めどなく溢れたことも。
忘れもしないのは、私が初めて出合った身内の死だったからかもしれない。


夜中に、死の間際「わぉん」と一吠え挨拶していったと両親は言った。律儀な子だ。

 

前置きが長いが、この律儀な犬、しろは二度お盆に帰ってきた。


一度目は初盆。(記憶にないので親の話によると)

しろ そっくりの若い犬が家の前に座っていたそうだ。両親が思わず「しろ⁉︎」と呼びかけると、その犬はスっと立って、去っていったそう。
「あれは、絶対 しろ の子。代わりに顔出しといてって しろ に頼まれたんやね」と両親は言う。落ち込んでいた両親を慰めようとしたのかしら。律儀な子だ。


二度目は私が10歳だったから、七回忌くらいか。
リビングで晩ごはんを食べていると、窓からじっと、しろ そっくりの犬が覗いていた。
「お母さん、しろ が来とる」と言う私をその犬はしばらく見つめると、すっと顔を引っ込めた。

慌てて玄関から飛び出すと、玄関先でこちらを振り向いた格好で待っていた。そして母が私に追いついたのを見届けると去っていった。やっぱり律儀な奴。
(なんとなく、この時は私に会いに来てくれた気がしている。“妹”の成長を確認しに来たのだと)
「そっくりだったけど、しっぽの巻きが逆だった」と母。

 

それきり、しろ は帰ってこない。


生まれ変わって幸せに暮らしているといいなと思う。

 

 

「あの子は自分が犬だなんて思ってなかったよね」

しろ の話をする両親の顔はいつも優しい。