くまんち

なんてことない、日々のこと

じゃがいもとヤクザ

「…あ!じゃがいも!」
「え?…やだ〜、朝は大丈夫やったとにぃ…」
「しぃ〜、まだみんな気づいとらんけん、隠さんね」
「うん…」
 
小学生の頃、音楽の授業は鬼門だった。
音楽室には上靴を脱いで靴下で入らなきゃいけないからだ。
 
「穴の開いとらん靴下、履いてこんば」
「朝履く時はじゃがいもなかったもん」
 
私は穴が開き、親指の頭がひょっこり見えた靴下の先をつまむとぴょ〜んと引っ張って、くるりと足の裏に折り込んだ。折り込んだ先を足の指で挟む。
 
「挟み過ぎだよ、足袋みたい。バレバレw」
 
くすくす笑っていると先生に叱られた。
 
 
「ねぇ、お母さん!じゃがいもできた〜」
「あらま〜、脱いどかんね」
「ねぇ、この靴下お気に入りやけん、じゃがいものとこ、ヤクザにしてね」
「はいはい、ヤクザにしとくね」
 
私の育った長崎では、靴下の穴からひょっこりした親指を(靴下の穴を、かな?)“じゃがいも”と呼んでいた。なんで“じゃがいも”かは知らないけれど。
 
そして、我が家では穴を繕った靴下をヤクザと呼んでいた。母の造語だ。ほら、喧嘩上等の傷痕みたいでしょ?
 
 
最近の靴下はつま先が丈夫なのか、うちの家族の歩き癖なのか私の夫も子ども達も“じゃがいも”ができない。かかとがすり減るハゲ頭ばっかり。
 
ヤクザの出番は一向にないのである。

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