くまんち

なんてことない、日々のこと

おばあちゃんミシン

トトン、トトン、トトトト…
 
ミシンを踏む。
 
ヴィィ…ン、タタタタ…
 
家族が寝静まる部屋に小気味よく響く、モーター音。
規則正しく落ちる針の音。
 
私はミシンの音が好き。
 
トトトト…タラタタタタ…
 
私が踏む強さに応じて、加速する。
同じリズムでまっすぐに伸びていく糸の列。
 
縫っているのは、ぞうきんなのに癒される。
 
「まだ縫うとこ、ある?」
 
娘が起きてきて、ミシンを踏みたそうに私の顔を覗き込む。
 
「おはよ。あと一枚、縫う?」
 
「縫う!縫う!」
 
縫い物が好きだった祖母から引き継いだ古いミシンは、シンプルながらモーターが強い。
重いガタイは大抵の縫い物にはブレたりしない。
 
 
魔女の宅急便で、キキの旅立ちにお母さんが古いほうきを持たせたシーンを思い出す。
 
嵐にも驚かずに飛ぶわ!
そんな感じ。頼もしい相棒。
 
「私ね〜、ミシン好き〜」
 
トトン、トトン…
 
慎重な娘の踏む強さに応えるようにゆっくり針を走らせるおばあちゃんミシン。
やっぱり小気味よい音が鳴る。
 
「な〜んか、気持ちいいんだよね〜」
 
「ね〜、お母さんも好き〜」
 
本当はぞうきんなんかじゃなくて、娘にワンピースなんかを縫いたい。春先にひら〜っとさ…
 
起きてきて泣きじゃくる息子をあやしながら、改めて思う。
 
「できたー!!なんか、ふにょふにょ〜」
 
娘の縫ったぞうきんは、フリルのように波打っていた。
娘がまっすぐに縫おうと一生懸命引っ張ったり、押さえたりした為に、タオル地が伸びて歪んだまま縫われたのだ。
「ふふふ、ぞうきんは意外と難しいからね」
 
「お父さん見て!ぞうきんできた!!」
 
「おぉ!四角い!」
 
「なんかふにょふにょ〜」
 
「いや、丈夫そうだ!」
 
娘は、得意満面でできたてのぞうきんをランドセルに詰める。
 
 
あぁ、
娘や息子の洋服を心置きなく縫う時間が欲しいなぁ
息子よ、もちっと昼寝してくんないかなぁ