くまんち

なんてことない、日々のこと

ゆるキャラだった私

大学時代、着ぐるみのアルバイトをしたことがある。
まだ世にゆるキャラブームが到来する前のことだ。
ブームに乗ってやろうという商魂のない、ありのままのゆるキャラをご覧ください。

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私は「モジャピー」

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(手持ちがない為、2枚ともネットで拾いました)
イベント会場の控室でTシャツが配られ、スタッフから簡単な説明を受ける。
ステージのショーはプロがやるので、私達バイトは会場を歩き回ったり、観客との触れ合うのがお仕事。
「できるだけ動きは大きくね!オーバーに動くくらいでちょうどいいから。中にいる間は絶対に声は出さない、これ鉄則ね!絶対守って。キャラになりきってください」
簡単な演技指導を受け、いざ、エントランスへ!


私の着ぐるみデビューはお客さまのお迎えだ。

着ぐるみの視界は狭い。∵ ←こんな感じで目と口の部分だけがメッシュになっている。もちろん外から目立たないように毛と毛に埋もれているから隙間からなんとなくしか見えない。
息も苦しい。
ドキドキして待っていると……来た来た!ちびっこが「モジャピー‼︎」と駆けてきた!

やったぁ!どうやらモジャピーは人気キャラクターのようだ。
「モジャピー、私のこと覚えてる?」

モジャピー、コクコク。
私、腰から大きくガコンガコン。

「会いたかったよー!」
はぁ〜そうか、そうか、モジャピーも会いたかったよーの気持ちを伝えたい。
どうしたものか…モジャピーは手が短い。できるアクションが少ないのだ。
必死で手を口元に持っていき、「はわわ」のリアクションをして、バランスを崩さない程度にぴょんぴょん跳ねてみた。
嬉しそうに抱きついてくれるちびっこを短い手で必死に背中ポンポン。モジャピーはなぜか手が手袋だった。しかもひじよりも短いので、手を伸ばすと私のお肌が見えちゃう。見せないように手を伸ばすのは必死だ。
「バイバーイ!バイバーイ!」
元気に去ってくちびっこを見た時には
あー私、いい仕事した!って満足感でいっぱい。
一人目の触れ合いだけで、もう帰ってもいいんじゃない?ってくらいの充足感。

 

着ぐるみ越しの人間模様は面白い。
普段の私が見ることのない世界。

子どもだけではない。大人も着ぐるみに対して無防備だ。
例の白い手袋の手を見ながら「モジャピー、おてて汚れてるよ!お家に帰ったら手を洗うこと!」と小さなお母さんみたいに怖い顔をする女の子。
「今日の中身は女の子ね!……わかってる、わかってる!中身なんてない、モジャピーはモジャピー!」なんて無言の着ぐるみの言葉を勝手に代弁してくれるおばちゃん。

「モジャピー、握手」と握手してくれるおばあさんと、そのおばあさんを困ったように優しい目で待っているおじいさん。
もちろん、キックしに来る悪ガキくんもいた。
視界が悪く、可動域も狭いので背後から不意に蹴られるのは怖い。
やめて、危険。本当にやめて。

 

さて、私のモジャピーっぷりはというと、なかなかの高評価であった。
思えば私の人生で唯一「君、才能あるよ」と言われたお仕事だった。

 

今は少しゆるキャラブームも落ち着いてきたかな?
それでいいのだ。
ゆるキャラ達はゆる〜く愛されていれば、それで。