夜になったら幼稚園へ
5歳の息子が幼稚園バスから降りるなり、「タイムマシンを作らなきゃなんだ」と言う。
突然のことに面食らってしまったけれど、息子の顔はいたって真剣。
※以下、人物名は全部「仮名」です。
「はるくんとサナちゃんと約束したんだ。今日、夜になったら幼稚園に集まろう!って」
同じバスを降りた友だちのたっくんが「そんなら、タイムマシンじゃなくて車で行けばいいじゃん」と言う。
「ダメなんだ。3人でタイムマシンに乗るために集まるんだよ」
「タイムマシンに乗って、どこ行くん?」
「集まった時に話し合おうってことになったんだけどー」と答える息子は、タイムマシンの作り方のことで頭がいっぱい!という顔をしていた。
「ぼく、4人乗りで作るからさ、今日うまくいったら次、たっくんも一緒に行こうね!」
「いーけど、ほんまにできるんかなぁ」
「やってみなきゃわからないけどね!お母さん、うち電池ある?いっぱいいるかも!!」
一緒に帰るたっくんのお母さんと、夢がありますね〜なんて笑いながら「また明日」と別れた。
帰るなり、ダンボールを発掘する息子。
おやつも食べずに黙々とタイムマシンを作る。
なんて愉快で夢のある約束だろう。夜中に子どもたちだけで冒険だなんて、まるで『ドラえもん』みたいじゃないか。幼稚園で盛り上がっただろう様子を思い浮かべながら私は息子の作業を見ていた。
ご覧ください!我が家の発明王は一人でこんな大物を作れるようになりました。
写真に収まっていないけれど、ラピュタの空賊たちが乗っていたフラップターのように連結しています。タイムトラベル中ははぐれないように連結するけれど、目的地では個々で移動できるんだとか。いいね、いいね!なかなか考えられている!(親バカ全開)
「あとは、夜になるのを待つだけだ!みんなと約束したからね!」
早く、早くと急かす息子に晩ごはんを食べさせながら、言いにくいけれど「夜になっても、幼稚園につれて行けないよ」と伝えた。
「なんで!!」
「夜はね、幼稚園開いてないから。それに夜中に子どもを外で遊ばせたりはできないよ。それは、はるくんのお家もサナちゃんのお家も一緒だと思う」
「でも、約束は守らなきゃ!」
「たぶん、はるくんもサナちゃんも来てないよ」
「わかってるよ!そうだと思うけど、でも、ぼくは、約束したことはちゃんとしたいんだよ!!はるくんたちが来てるかどうかはいいの!」
一人でも行く!!と玄関で号泣して今にも飛び出しそうな息子を膝に抱えて、ぼかぼかに殴られながら、息子のこのまっすぐな思いに対して、私の制止する理由はなんてつまらないんだろう、と思った。
この子は自分自身のために友だちとの約束を守りたいのだ。友だちがどうするかは大した問題ではなかったのだ。
夜の幼稚園に連れて行き、寒空の下、来るはずのない友だちを待つことは、彼を傷つけるだろうという思いが私にはあった。でも、大人の理屈で「来るはずがないから」と約束を破らせることこそが彼の誇りを傷つけたのだ。
難しいなぁ。
先回りして子どもを守ろうとするのは子どもの為にならないとわかっていながらもつい、出てしまう。だから正直に友だちがいなくてがっかりするあなたをお母さんは見たくなかったんだと打ち明けて謝った。泣き疲れた息子はいろんな感情を飲み込んだように、ただ「うん」と答えた。
私が思っていたよりもずっと息子の心は強く気高い。彼の中に5歳なりの男気のようなものが育っていることが嬉しい。
そのまままっすぐ。君らしくまっすぐ大きくなっておくれ。
お母さんも、もっと精進します。