おひさまガール
9月9日、娘待望のゲームの発売日であった。
『スプラトゥーン3』
前作が出たのが何年前だったか。娘にとってはほとんど初めてのテレビゲームだ。小学校のうちはスプラトゥーンをもっていない友だちがほとんどいなかったこともあり、娘は小学校転校前も、転校後初めてクラスメイトのお家にお呼ばれした時も、コロナ禍でも…とりあえず「スプラする?」で友だちと繋がれた。そんなゲーム。
その新作、発売直前の前夜祭を経て、娘はうずうずしていた。
娘には最初の小学校に最大のスプラ友だちがいる。小2、小3と同じクラスでスプラを通じて仲良くなり、毎日のように一緒にキャッキャキャッキャと作戦会議やオリジナルの敵を考えたりしていたそうな(その時の自由帳やプリントの裏のイラストは今でも大事にとっている)転校後も何度か遊びに来てくれて、中学校で再び同じ学校に通えることを娘はそれはもう、楽しみにしていた。その彼女が入学からぽつりぽつりと休みがちになり、2学期になってからどうやらずっと休んでいるようなのだ。
一番話したい友だちと話せない。
前夜祭でうずうずしていた気持ちは、手に入れたソフトをプレイするうちに爆発した。
「あーーこんな時はスマホ、欲しくなるね…話したいことが、止まらないのに!!話せる友だちがお母さんしかいない!あ、お母さん友だちじゃないけど。あーーーー!!!」
「そんなに話したいことがあるなら、手紙でも書いたら?」
あ!と自室に飛び込み、娘は一気に手紙を書きあげた。
よせばいいのに、ふと気になり「話したいから学校に来て、みたいなこと書いてないよね?」と聞いてしまうと
「学校のこと?書くスペースないもん。あ、◯ちゃん(共通の友だち)が生徒会立候補したことだけお知らせしとこ」と返事。
娘ののーてんきにほっとする。
「へへへ。昔、一緒に描いた絵も入れとこ。覚えてるかな〜」
そんな感じで手紙を送った。返事はない。
スプラで合流プレイしたいね…と手紙に書いたらしいがタイミングが合わないのかなかなか会えない。そうこうしているうちに中間テスト期間に突入してしまった。
そして昨日「びっくりしたよ〜なんか突然、Aちゃんの担任の先生に声かけられてさ」
娘の手紙を受け取った友だちが「学校に行ってみようかな?」と言ったことを喜んだ親御さんからお礼を伝えてほしいと連絡があったのだそうだ。
「学校に行く気になるようなこと、なんも書いてないんやけど…?」と戸惑う娘の話を聞いて、私はただただ嬉しかった。
「さすが、娘!世界をほんの少し明るくしたね」
「意味わからんけど」
「たぶん、あなたの手紙を笑って読んだんだよ。会いたいな〜て気持ちが届いたんだよ。ほら、あなたの周りの世界がほんの少し明るくなった感じじゃない?」
娘は、えー?だの、大袈裟すぎるだのぶぅぶぅ言っていたが笑っていた。思わずこぼれた言葉だったからうまく説明できなかったけれど…娘と娘の大事な友だちが笑っていれば、少なくとも私にとって世界は明るい。
「ただいま〜」と夫の声が聞こえるなり娘が言った。
「お父さん、私がほんの少し世界を救ったって話、聞く?」
「ん!?」
おや?ほんのり、厨二のかおり。