パートナーの呼び方
結婚後の呼び方、私は夫に名前で呼んでほしいと頼んだ。
苗字が変わり、仕事も辞めて、故郷を離れ、私を知る人が誰もいない土地で暮らすことは想像していたよりもずっと私を不安定にした。
「名前」だけは失いたくない、という変な思い詰め方をしてしまった。
夫は「まぁ、どっちでもいいけど」と「〇〇さん」呼びを心がけてくれるようになった。
結婚前はなんと呼ばれていたかというと「おねえ」だ。
何がきっかけかわからないけれど、彼は気に入っていたように思う。ちなみに彼はサークルの先輩だったので、私の方が一つ下。そして、悲しいくらい姉御肌でもない。
「おねえ」が「おかあ」に進化して、「おばあ」になって死ぬと思ったら、なんだか私の人生って何なの⁈と……心が弱っていたとはいえ、だいぶ大袈裟か。
当時は真剣だったのだけど。
付き合い始めた当初、呼び捨てもできず、ラブリーなあだ名も無理、二人して真面目に照れまくった結果、名前にさん付けで呼ぶことにした経緯があるので、原点回帰といえば原点回帰なんだけど。
くだらないことにこだわったなぁとも思う。
彼が何を気に入って「おねえ」と呼んでいたのかわからないし、たぶん本人も忘れていただろうけど、一緒に過ごした歴史の一つだったのにな、とちょっぴり後悔。
でも、まぁ、やっぱり変よね。「おねえ」
かくして、今では名前で呼ばれて…いるかというと、そうでもない。
奴は名前で呼ばざるをえない時にしか呼ばない。
では何と呼ばれているかというと
「あたし」だ。
これは私に原因がある。私が彼を「オレ」と呼ぶからだ。
「ねぇ、オレはどう思う?」
「あたしの好きなようにしろよ」
こんな感じ。
割と便利なのだ。お互いに名前で呼ぶよりもこっちがしっくりくる。
こんな呼び方している人は多くないのかな?
便利だからか、夫は最近、娘にまで
「あたしは宿題終わったのか?」なんて使うようになり、自分の母親にも「あたしは最近どうなん?」と言っていた。お義母さんの目玉がまんまるになっていたよ。
ついには「わたしは10分寝るけん、声掛けて」なんて言い出した。
「待って、自分のことも あたし になったの⁈」
「よく聞け、俺は わたし だ。あなたは あたし」
あー、会社では一人称が「わたし」なのね……ってややこしいわ!!
ややこしいわ!!!
こんな理由もあって、私は結婚時に呼び名にこだわったことをちょっぴり後悔している。
突き詰めると、お互いをラブリーなあだ名で呼べなかった照れ屋な大学時代を呪うしかない。