くまんち

なんてことない、日々のこと

結婚指輪紛失事件

世にもおバカな事件のあらまし。思いの外、長くなりました。お暇な方はお付き合いください。

結婚9年目にして、私は結婚指輪をなくした。

排水溝を掃除した時か、家族の靴を洗った時か…傷ついたり、汚れないようにと外した指輪をどこかに落としたらしい。外したその日は娘が急に嘔吐し、バタバタと小児科に行ったりして、指輪がないのに気がついたのは翌日の朝だった。
可能な限り探したのに見つからないところをみると、外した日の朝、ダイニングテーブルの下で口を開けていたゴミ袋があやしい。

夫は「ちゃんと探せ」としか言わなかった。
それが余計辛かった。

スカスカの薬指を時々無意識に触っては溜息をつく私に、娘が折り紙で小さな指輪を作って慰めてくれた。指が淋しい時はそれを付けてみたりしていた。
買い直していいか?とは言えなかった。買い直してもあの日二人で選んだ指輪とは違う。夫の薬指にはまっているそれの相方ではない。
結婚10周年!とはしゃぐ気も失せてしまった。


去年の9月。ラーメン屋の帰りに散歩と称して、ティファニーに連れて行かれた。
夫の意図はわかった。わかったけど、ラーメン屋に行くと言われて、何も考えずに履き潰したスニーカーにヨレヨレのシャツとジーンズだった私は、メイクも日焼け対策程度だった私は、いろんな意味で泣きそうだった。

夫は「10年目だから、石付きのにでもしたら?」とか「デザインが違うのにしたら?」とか言っていたけど、結局 結婚する前に二人で選んだデザインのものにした。
夫は未だ失くした指輪がひょっこり見つかることを信じているようで、少し不服そうだった。
でも、私はこのまま見つからなかった時のことを思うと違う指輪をはめたいとは思えなかった。

内側の刻印は、10年前のものと機械が変わり、書体が少し変わるらしい。
夫は「二号って入れてもらう?」とにやり。
とにかく、失くしたものとは違うことを明らかにしてほしいそうだ。気持ちはわかる。

「2人の名前の後ろに子ども達のイニシャルを入れる?」
「…いや、結婚指輪は俺たちのでいいだろう」

じゃあ、と結婚記念日の後ろに“10th”と加えてもらった。


10年目の結婚記念日。
「二度と外すな!!排水溝だろうと、ドブだろうと、二度と指輪を外すんじゃないぞ!」と言いながら夫は娘に指輪の箱を持たせた。
キョトンとする娘に夫は「結婚式で見たことあるやろ?牧師さん役」と告げた。
娘は「あ、誓いますか!のやつ!!」とウキウキ。
夫は指輪をむんずと掴むと娘に握らせた。

「じゃ、私がお母さんに指輪をあげたらいいの?」
「いや、お父さんだよ」
??
次に娘の手から息子の手にちょいっと触らせた。
「よし。子ども達からも、だ。これでもう、あなたは失くせない!」
そう高らかに宣言し
「二度と外すな!あなたはバカだから、すぐまた失くすからな!!」
…と、悪態の限りを尽くして、夫は私の薬指に二つめの結婚指輪をくれた。

ロマンティックのかけらもない10周年をお祝いし、明日結婚11年目を迎える。

指輪はあれから外されることなく、
私は “ 排水溝掃除には使い捨てビニール手袋 ” という知恵を得た。

これにて一件落着!